情報システム
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2000, Feb. 20th, updated



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優れた問いは,答えに勝る.-”全国アホバカ分布考”に見る,良い研究とは何か?-

注)赤字は山口の加筆修正部分です.
1999年11月16日(火)講義ノート....電子情報専攻 浅井研究室 大杉 直樹



From: "Naoki Ohsugi" 
Date: Thu, 25 Nov 1999 13:46:07 +0900

情報システム クラス・ノート 電子情報工学専攻 4番 大杉 直樹

個人的な考えにより、「素人」、「初心者」、「素朴な」などの言葉が使われている
フレーズには変更を加えています。

「素人」しか考え付かないような「俗的」で「素朴」な疑問も見逃さない人こそが
「専門家」であって、そうでない人は「権威ある人」もしくは「過去に実績のあった
人」とでも呼ぶべきですよね。学校やアカデミーはどうあれ、少なくとも僕らはそう
いう人に惚れこむ事は決して無いし、そんな奴を目指して生きて行くのはクールじゃ
ないと思います。

ただし、「知識は思考を制約する」という結論には少しだけ反対です。思考を節約す
るのは環境だと思います。研究室や一定の環境に閉じこもっているから、「俗的」な
問題を無視してしまう事になるんだと思います。これはあくまで僕の実体験が根拠で
すけど。

以上です。


===== 以下、クラス・ノート =====

1.先週のクラスの概要「思考のレッスンより」

 A.謎を育成する

 B.既存の定説に影響されすぎない

 C.読書の際には熟慮と共に:謎を育てるには知識の隙間が必要

 D.比較、分析を繰り返す:考えを進めるための手法

 E.仮説を立てる際には他の条件などに対して萎縮しない:斬新な仮説を立てる

 F.大局的な視野を持って仮説を評価する
  i.仮説が,もっと大きな範囲で適用できるか考慮
  ii.仮説の候補の内で、広い範囲に適用可能なものを選択する


2.良い研究とは何か

 A.いかに良い問題・謎を見つけるか:優れた発見を行う為に必要
  i.新規性、知的魅力、話題性:誰も考えつかなかった盲点
  ii.発展性、拡張性:新たな発見、他の研究へ発展する

 B.問題・謎の展開
  ex.『アホ・バカ分布考』
   アホとバカの境界線はどこにあるか?
   一般的には関西がアホ、関東がバカと考えられている
   (調査の結果)境界線は1本ではない。「アホ」を使う地域の西にも「バカ」を使
う地域が存在した

   言語学者の柳田 国男によって『方言周圏論』はこの調査以前にも発表されていた
が・・・
   「言語は都(文化の集積地)を中心として同心円状に分布、拡大して行く」
   彼が実証したは“かたつむり”という単語の3重円が最大だった
   彼の学説は学会では認められなかった

   ◎「専門家の盲点」が原因である
    a.定説の変化に対する抵抗感 (言語は常に変化して行く)
    b.俗的な研究対象に対する抵抗感(取り上げられる価値が無いとされ、考慮から
外される単語、学問)
    ⇒非専門家の(偏見のない)視点が専門家の(偏見に凝り固まった)盲点を突く

   <結論>
    a.「アホ」という言葉は「バカ」に対し、京都を中心として13重の同心円で分布
していた
    b.「アホ」という言葉が伝わる速度は約800 m/year
     参考.最も古い「バカ」に代わる方言は沖縄県 八重山地方の“フリムン”
(“惚れ者”の意)

   以上、出典:全国アホバカ分布考(新潮文庫)

 C.問題・謎の展開の過程

  i.偏見の無い疑問が専門家の盲点をつくまでの過程
   a.最初の仮説:アホとバカの境界線は中部地方の辺りでは?
   b. 調 査 :仮説に対して実際に調査を行う
   c.比較・分析:調査によって得られた結果を仮説と比較・分析し、新たな問題や
謎を見つける

  ii.偏見の無い疑問と、専門家が考える問題の相違点
   調べるデータ対象の着眼点の違い(学者にとって俗的な言葉は考慮の範囲外)

  <知識は思考を制約する>
   専門知識を増やすし、スキルアップをしつつも偏見の無い疑問を見逃さない広く
透明な視野を維持する

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yamaguch@info.nara-k.ac.jp


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